赤ワインにおけるシュール・リー熟成と澱の効用

ミュスカデで知られるようにシュール・リー熟成はフレッシュさ、繊細さ、複雑なブーケを加味する方法として白ワインではめずらしい方法ではありません。しかし、プリモ・パラテュームをはじめとする新世代の醸造家や造り手の独創性はこのシュール・リー熟成を赤ワインの醸造にも取り入れたことです。赤ワイン醸造におけるシュール・リー熟成はとりわけワインにこくと複雑みを与え、ワインの組成(テクスチャー)とブーケを豊かにしてくれる効果があります。

また、シュール・リー熟成においては、ワインは澱と一緒に寝かされるため、伝統的なスーティラージュ(澱引き)の作業は行われません。本来スーティラージュ(澱引き)には大きく分けて二つの目的があります。一つは文字通りの澱引き、ワインから澱を取り除くことです。もう一つはワインを空気に触れさせることです。シュール・リー熟成では澱を出来るだけ長くワインと一緒に寝かせておくために澱を取り除く必要はありませんが、熟成中にワインの還元反応が強くなった場合にはワインを空気に触れさせる必要があります。そのためワインを空気に触れさせるためにスーティラージュをすることがありますが、その場合も澱はそのままワインの中に再混入されます。(ブルゴーニュのドミニック・ローランはこの方法を取っています。)一方ワインを樽から出すことなくワインを空気に触れさせる方法もあります。それが、ミクロ・オキシジェナションです。ミクロ・オキシジェナションの装置は自由に空気の供給量を調節できます。通常は微量の酸素を供給しているのですが、熟成中にワインの還元反応が強くなり、澱引きでワインを移し変える時のように、ワインを瞬間的に多量の酸素に触れさせて酸化反応を起こす必要性がある場合には、多量の酸素を瞬間的に噴き出させることが出来るのです。この技術をクリクールといいます。つまりこのクリクールという技術はスーティラージュに取り代わる技術なのです。プリモ・パラテュームでは、このクリクールという技術を取り入れているため、ワインは熟成中全く澱引きされません。また、クリクールはバトナージュの作業にも取り代わっています。バトナージュとはシュール・リー熟成中に定期的にワインの澱を攪拌する作業のことです。澱が樽の下に沈殿してしまうとワインの重さでつぶれて悪影響を及ぼすため、定期的に攪拌して浮遊状態にしておく必要があるためです。クリクールの場合は、多量の酸素が瞬間的に噴き出すことによって澱が浮遊状態になり、バトナージュで澱を攪拌するのと同じ効果があるのです。

また、澱は斬新的な清澄効果も持っています。プリモ・パラテュームのワインはこの澱の効果を利用して清澄を行っているため、通常の清澄作業(例えば卵白を使用した方法)を行いません。また瓶詰めは無濾過で行われます。これはワインの熟成によって得られたすべての要素をほんのわずかでも逃さないようにするためです。