新樽200%と赤ワイン醸造における酸素供給の必要性

新樽を使用するのは流行の樽香をつけるというファッション的な理由からではありません。ワインに適量の酸素を供給するために新樽が使われているのです。以前の醸造学の常識ではワインの熟成中の酸化は好ましくないものと考えられていました。しかし、近年はある程度の酸素は必要だという考え方になってきています。

なぜ酸素が必要かというと、酸素不足の状態だとタンニンとタンニンが直接結びついて大部分が下に落ちてしまうからです。そうするとワインはジャバジャバになるか、落ちずに残ったとしても非常に粗いタンニンになってしまうのです。ところが適量の酸素があるとタンニン同士が間にアセドアルデヒトという化合物を介して結びつく(重合)のです。こうするとタンニンは非常にまろやかな渋みになり、かつ下に落ちないで安定するのです。また、色のもとであるアントシアニンについても同様で、適量な酸素があることによってアントシアニン同士が間にアセドアルデヒトを介して重合するために、いつまでもきれいな色が保てるのです。そして、何よりもこの仲介役をするアセドアルデヒトの生成には適量な酸素が必要なのです。

あのミッシェル・ロランも「一時、皆が最大限にワインを酸素から遮断することに努力しました。赤ワインは酸化によって不快なタンニンを作り出すからそれを避けようとしたのです。当時は、酸化はすべて欠陥として忌み嫌われました、今、ワインを酸化させる技術に注目が集まっているのは、その現象がどうして起こるのかが解明され、適量の酸素を適当な時期に加えることによって、好ましい質が得られることがわかってきたからです。」と述べています。

このようにワインの熟成中には微量な酸素を定期的かつ穏かに供給することが必要なのです。この酸素供給を可能にしてくれるのが新樽であるのです。新樽は古樽に比べて多孔質であるため、酸素の供給量が多くワインに適切に酸素を供給することが出来るのです。

通常プリモ・パラテユームでは、発酵・熟成期間を通して1セットの新樽が使われますが、カオールやマディランのように非常に強いワインに対しては最初の新樽をそのまま使い続けると樽が弱くなりワイン熟成の環境として乏しくなるため、もう一度新しい樽を使います。この場合、マロラクティック発酵に1セット、熟成に1セットずつ新樽が使われるため、この技術を新樽200%と呼ぶのです。1つのワインに対し通常の2倍の数の新樽を使用するためワインの価格は必然的に高くなってしまいますが、これだけ醸造家の信念と理想を極限まで追求して造られたワインは他にありません。